妊婦と放射線被曝

2011 年 3 月 26 日

私の手元に、研修医の頃から愛用している、「新版・妊婦の薬と管理ハンドブック」という小さな本があります。

この本を片手に、妊娠初期にレントゲンを撮ってしまったので中絶すべきかどうか、という相談に何度のって来たことかと思い返してみました。長い不妊の末にできたのだが、その妊娠に気付いたのは腹部のCTを撮った時にわかったから、という方もありました。放射線の単位はradという古いものからGyという単位に変わっており、本を片手に計算しては、大丈夫ということを強調してお産にこぎつけたものでした。CTでも被曝量は0.25mSVくらいなのです。
基本的には、1rad=10mGy=10mSV と考えていいですので、当院でよく行う子宮卵管造影検査での卵巣被曝線量は、だいたい2.1mSV、ということになります。福島の作業員の方の被曝量200mSVは約100倍ですので、1日で卵管造影を100回受けたくらい放射線を浴びたことになります。そうするとこれは相当な量なのだな
とわかるはずです。

さて、妊娠中に放射線被曝すると、時期によってさまざまな影響が出ます。
受精から妊娠が判明するまでの時期だと、50mSV以上の被曝で流産します(これはもちろん妊娠反応が出る前なので流産かわかりませんが)。
妊娠4から8週だと、50mSV以上の被曝で奇形が発生します。小頭症や網膜変性、白内障、骨格や性器の異常などです。
8週以降だと、100mSVで発達障害、200mSVで精神発達遅滞が生じます。
また全期間を通じて線量に応じて、胎児が出生後、癌になる確率が上がります。1mSVの被曝だと出生後癌になる確率は0.01%(1万分の1)です。10mSVだと0.1%(1000分の1)ですから相当高くなります。
ただ、この数値を見て考えて頂きたいのは福島に住んでいる人でも原発で作業している人でもない限り、そんなには容易に被曝しないであろう、というくらいの線量なのです。ですから、基準値とか暫定基準値とかいろいろニュースに出てきますが、どうかパニックにはならず冷静な行動をとっていただきたいと思います。本当に危険なら政府自体が逃げて避難するはずです。福島県の産婦人科がニュースに出ていましたが、福島県在住の人の心配を考えたら東京人があまりにパニックになるのは恥ずかしい話です。
ですので、今東京に少しは基準値を上回るくらい放射性物質が来ているとしても、胎児に影響が出るような数値には程遠いですし、ですので、昆布やわかめやイソジンのうがい薬など全く必要ないです。
ちなみに過去の被爆者のいたましい経験から、原爆投下時広島、長崎在住だった10歳以下の子供の3分の1に白血病が発生したことや、チェルノブイリでは小児甲状腺がんの頻度が高くなったということは明らかなのですが、こういった心配をすべきなのは福島県在住の方や近くの宮城県で実際にそんな心配をしている余裕もない被災者の方々なのだと思います。

子供は心配、胎児は心配、ですが、くれぐれも正しい知識を理解して、正しく判断して行動する、ことを心がけてください。お願いします。
私も、それくらいの量は、毎日卵管造影で浴びてるぜ(もちろん鉛の防護衣を着けてはいますが、腕や頭は浴びてます)、と思いながらニュースを見ております。

多剤耐性細菌について

2010 年 9 月 29 日

帝京大学医学部付属病院の院内感染で多剤耐性アシネトバクターという菌が原因で多数の死者が出ました。多剤耐性菌の問題は、最近にはじまったことではなく、私が医師になった20年前よりももっと前から言われ始めていました。

昔まず問題となったのはMRSAメチシリン耐性ブドウ球菌です。ブドウ球菌は皮膚にでもどこにでもいる細菌なのですが、メチシリンというペニシリンの一種に対して抵抗力をもつようになってしまって他の抗生物質も効きにくくなってしまい、バンコマイシンというもっと強い抗生物質が必要になってしまった。ところがこれを乱用することで、またこのバンコマイシンの効かないVREバンコマイシン耐性腸球菌というのも出てきてしまった。その他にも多剤耐性緑膿菌や、最近ではスーパー細菌と呼ばれる全く抗生物質の効かないNDM-1という遺伝子を獲得した細菌まで出現し始めたのです。

私は大学病院で研究をしていた頃抗ガン剤耐性ということについて実験をしていました。どのようにするかというと、がん細胞が全部死なない程度にうすめた抗がん剤と一緒にがん細胞を培養して、そこで生き残ったがん細胞はその抗がん剤が効かなくなって耐性というのを獲得する、というような方法でした(現在卵巣がんで中心的に使われているタキソールという抗がん剤に対する耐性細胞を後輩の先生と作ったりしました)。多剤耐性細菌もこれらの方法と一緒で、結局人間が抗生物質を使いすぎたせいで出来てきたのです。

抗生物質を使えばそこで生き残ろうとして細菌も変異する、という訳です。インフルエンザについても同様なことが言われておりタミフルの効かないインフルエンザウイルスもいずれどんどん出てくると思われます。

しかし幸いなことに、多剤耐性アシネトバクターやスーパー細菌は、日本ではまだ少数で、海外からの輸入(海外で手術などした方から持ち込まれる)がまだ多いのと、あと、これらの耐性細菌は一般健康人に対しては弱毒で無害なことがほとんどだということです。いまの時点でしっかりとした国としての対策が望まれます。それと、われわれ一般人ができるのは、やはりむやみに抗生物質を使わない欲しがらないということだと思います。ふつうの風邪は一般にウイルス性ですから抗生物質は不要なことが多いですし、自分の免疫力で治癒するはずなのです。当院でも予防で使用する抗生物質は半分の日数に減らすことにしました。

産婦人科の領域でも細菌感染症は問題となることが多い領域ですが、いまのところ薬剤耐性菌の問題は淋病くらいです。淋菌にはかなりの抗生物質が耐性となっていますが、めぐりめぐってまたペニシリンが良く効くのでいまのところは安心でしょうか。クラミジアも耐性菌という話はでていません。妊婦で問題となるGBS(B群溶連菌)も耐性菌の話はなくペニシリンで十分です。そして多剤耐性菌による子宮内感染などもいまのところ報告はないようです。しかし、先述のように菌は生き物で、生き延びて耐性を獲得するのですから、つねに最新の情報に目を光らせておく必要がありそうです。

とりあえずは、寒くなってくるこれからの季節、無駄な抗生物質をのまなくていいように、手洗いとうがいの励行を始めましょう。

次回は抗生物質によっておこるカンジダ膣炎などに対するプロバイオティクス治療の可能性について、書きたいと思います。

旅行やテストなどに伴う月経の移動について

2010 年 8 月 2 日

夏休みで海水浴シーズン真っ盛りです。そのため生理をずらしたい、という方が季節的に大変増えています。月経をずらす場合の基本的事項を中心に今日は述べてみたいと思います。

まずは、基本的には遅らせることが原則となりますが、遅らせるためには生理予定日の1週間前から薬を飲む必要があります。これより遅れるとギリギリになればなる程、薬を飲んでも手遅れで来てしまう、ということがあり得ます。旅行などあらかじめ予定がたっていることがほとんどでしょうから、最初から計画的に考えておいてほしいと思います。

内服薬はプラノバールという薬がほとんどですが、吐き気の副作用が10%程度の方(印象ではもう少し多く20%くらい、薬の添付文書では6.25%となっていますが)に起こりますので、せっかくの旅行中オエオエ言っていて楽しめなかった、ということがないよう、気持ち悪かった場合の対処法は主治医と相談すべきでしょう。

当院では、あらかじめ吐き気止めを処方するか、だめな場合は注射にする(これも自費となります)など考えておりますが、注射は1週間ごとに射たないと生理が来てしまうこともありますので長期の旅行向けではありませんので、注意が必要です。

遅れてくる月経については、遅らせる期間が長いということはそれだけ子宮内膜が厚くなり剥がれて出てくるものが増えることになりますから、多くなりがちでいつも月経困難がひどい方ではよりつらくなりやすいです。それに対しても鎮痛剤など準備しておくべきでしょう。

これら月経移動法はすべて保険適応ではありませんから自費診療になりますが、当院では、大体の目安で2週間の移動で3500円前後の治療費を頂いております。今後は、内服以外で(気持ち悪くなりにくい方法で)注射より長期に遅らせられるいい方法があれば、と思っていますが、更年期のホルモン補充の貼り薬や外国で売られている貼るタイプの避妊薬などが応用できるのではと考えており、なるべく早く導入しようと検討中です。希望の方は御相談ください。

それと、2ヶ月も3ヶ月も前からわかっていることに関しては、早めて調節するほうが楽ですからそちらをおすすめします。その場合は、2,3ヶ月前の月経中に受診くだされば早めにずらしてそのあと自然にまかせるという方法で済みます。早めた場合は排卵していない状態で来る生理ですから楽ですし吐き気が出た場合の対応もしやすいので、余裕がある方には断然そちらがおすすめです。

ピルを飲んでいる方については応用編ですから簡単です。1相性を飲んでいる方はそのままずっと同じように止めておきたい日まで飲む、2,3相性のものを飲んでいる方は最後の週に飲むものと同じものを続けて飲めばいいのです。この場合ちょっと他の錠剤が無駄になりもったいないですが、いつも慣れた薬の安心感には代えられないと思えば仕方ないはずです。

それでは、うまく生理を調節して楽しい夏休みをお過ごしください。

40代のマンモグラフィーは?

2010 年 7 月 12 日

ちょっと前にアメリカで40代の女性にはマンモグラフィーを薦めない、という報告がなされ、物議をかもしました。これについては、日本人ではどうなんでしょうか?考えてみたいと思います。

アメリカ人女性のデータについても、死亡率減少効果はあるのです。ですから無効というわけではなく有効は有効なのです。しかし、有害事象という専門用語が出てくるのですが、これが有効性を上回る、ということのようです。有害事象というのは結局疑陽性(ほんとは癌じゃないのに癌の疑いと言われ組織診(針を刺して組織を採ること)をする)の人が多くなりすぎた、ということなのです。アメリカ人は皆さんもおわかりのように日本人より乳房の発達した人が多いですから、乳腺組織が厚く映るために診断がつきにくくこういうことになるのだと思われます。それと、アメリカ人の場合、乳癌に一番なりやすい年代が日本より20年くらい遅いのです。60代70代の病気というイメージなのです。そこで、40代ではマンモグラフィーは薦めないという結論が導き出されたのです。

日本人では、死亡率減少効果は当然認められますし、何より子育て真っ最中のこの世代(40代)が一番乳癌の発生率が高いのです。ですので、今まで通り、40代の方は2年に一度は必ずマンモグラフィーを受けて頂きたいと思います。アメリカのデータはあくまでアメリカ人向けです。日本では、すぐ組織診とならず、エコーやMRIも組み合わせて診断することが多いため有害事象は少ないと思われます。

現在、日本では独自に、エコーが乳癌検診に有効かどうかの研究が進行中ですので、その結果を待ちたいと思いますが、とにかく従来通り2年に1回マンモ、毎年エコーという認識でいて頂いて大丈夫です。それと、先日の研究会で聞いてきたのですが、自己検診はするな、ということでした。大丈夫と思った場合に他の検診を受けなくなるから、というのです。自己検診が有効なのは定期的にマンモやエコーで検診を受けている方のみ、なのです。注意してくださいね。

子宝温泉の効用

2010 年 7 月 9 日

夏休みシーズンになり、旅行に行かれる方も多いと思いますので、日ごろのストレスを忘れて思いっきりリフレッシュして頂きたいと思います。そこで、温泉旅行の効用について医学的な報告などを考察しながら考えたいと思います。不妊に効く子宝温泉というのもよくありますが、本当なのでしょうか?

まず、温泉の効果として言われているのは温熱効果です。温めるということは子宮卵巣に行く血流を増やす、という意味がありそうです。当院で採り入れているサンビーマーや半導体レーザーも原理的には温熱効果を求めているものですから、これは大きいと思います。

続いて考えられるのが、心理的にストレスから解放される効用です。これは現実から離れてのんびりすることで心理的にも追い詰められた気持ちから解き放たれますので、またあらたに頑張ろうという勇気もわいてこようというものです。さらに、実はこれが免疫系に作用し身体的な変化も起こしていることが多いのです。温泉に長期滞在することで副腎から分泌されるステロイドホルモンが増加したという報告があります。ステロイドは、不妊治療でも時々内服薬として処方することがあり、NK細胞活性というのを下げたり、Th1、Th2というリンパ球の比を変化させたりして着床しやすくさせるという報告がありますので、温泉につかることで自然と着床しやすくなっている可能性があると考えられます。(漢方ではストレスがあると胸脇苦満という状態になり、そうした状態には補中益気湯や加味逍遥散などが効きますが、漢方を飲んでいるのと同じ効果とも考えられます)

妊婦となると、初期の温泉は流産や奇形につながるといった報告が海外であったりしたこともあり(発熱と同じリスクだというのです)、初期以外でも感染の危険性から長時間の入浴は避け1回に10分から15分以内の入浴がいいでしょうという報告もありますが。

よく俗に言われる「あきらめたら出来た」みたいな話は実際にはそう多くはありません。しかし、そうした話は実はストレスから解放されて心身の状態が安定したら出来たよ、ということの象徴、たとえ話なのだと思います。(もちろん現実にそういう人もいます)そういう状態に近づくのに、温泉は有効なような気がしています。

近くの伊香保温泉などの子宝の湯については今度実際に行ってレポートしたいと思っています。

不妊原因ベストナイン

2010 年 5 月 24 日

不妊原因のランキングを以前は、相撲の番付けにしましたが、今回は交流戦で盛り上がる野球になぞらえてみました。

1番、ライト、子宮内膜症。チョコレートのう胞などがないと、見落とされやすいのですが、確実に不妊の原因になっていることが多く見逃せない、イチロー的存在。

2番、ショート、原因不明(長い不妊期間)。一般検査では異常がなく、病院によっては「そのうちできるよ」と言って放置することもありますが、長い不妊期間の場合は、検出されない異常が隠れている(卵管のピックアップ障害や受精障害、など)ことがおおく、放置できない、いぶし銀的存在。

3番、キャッチャー、卵管閉塞。やはり、出会いの場である卵管の重要性は言うまでもなく、妊娠のための要。早期の検査をおすすめします。

4番、ピッチャー、高齢(年齢)。ずばり、40歳以上は、やはり年齢だけで妊娠率低く流産率高い、ということになります。プロ野球ではありえない、エースで4番。

5番、サード、精子異常。御主人の方に原因がある場合も、一般治療には限界が。数回の検査であまり状態が改善しなければ早めのステップアップを。

6番、セカンド、PCO。PCOは多のう胞性卵巣症候群の略ですが、頻度的にはかなり多く重要な原因の一つです。排卵誘発に反応してくれればすぐ妊娠される方もありますが、卵の質が良くならない場合もあり、注射を打てば多く育ちすぎてOHSS(卵巣過剰刺激症候群)という副作用が強く出る方もあり、なかなかうまくいかない場合もあります。

7番、ファースト、子宮筋腫。小さなものだと放置されやすいが、あなどれない存在。手術で摘出した場合、50%くらいの方が妊娠されますが、妊娠の邪魔をしている筋腫かどうかの判断に迷う場合も。しかし、他に異常ない場合は手術にトライした方が結果が早く出ることも。

8番、センター、子宮内膜ポリープ。内膜ポリープがあってそのままで妊娠される方もありますが、取ってみると意外にすぐ妊娠が成立することがある、意外性のある存在感。ポリープを取る子宮鏡手術で大量の水で子宮内を洗うので、卵管も通水されるのでは、という見方も。

9番、レフト、高プロラクチン血症。軽い排卵障害の場合、クロミッド、セキソビットなどの内服をするまでもなく、カバサールだけで妊娠される方も多いです。しかし、他の因子と合併すること多く、見逃せない存在ではあります。

以上ですが、代打の切り札として、子宮腺筋症はあげておきます。普通の内膜症以上に、着床障害の原因になるのに筋腫のように摘出が容易ではないため、あった場合かなり治療が難しくなります。

野球のわからない方への説明としては、重要度は、4、3、5、1、6、7、2、8、9、といった順番です。御主人にでも聞いてみてください。

サッカーは私も詳しくわからないので、重要度ランキングは今回で終わりにします。

ジェネリック医薬品について

2010 年 4 月 12 日

4月からの保険の改訂で診療内容の明細書が発行になりましたが、それ以外に変わったことは何かあるでしょうか?厚生労働省の意向であると思われるのがジェネリック医薬品の普及です。当院でも、薬局さんに協力するかたちで積極的にジェネリック医薬品を処方し始めています。

そもそもジェネリックってなんでしょうか?TVのCMで黒柳徹子さんが甲高い声でジェネリック、ジェネリックと言っているのは皆さん聞かれたことがあると思うのですが、ジェネリック医薬品というのは日本語に訳すと後発医薬品ということになります。

新薬が開発されると薬の特許期間は普通20年だそうで(ですので、いまあるジェネリック医薬品は最初の特許が1990年より前に取られている、ということになります。私が医師になったのがちょうど1990年ですからジェネリック医薬品がある薬というのはもう十分実績のある薬ということになります)、それを過ぎた薬については同じ成分の薬を他社が製造販売してもいいということになっているのです。

新薬開発には莫大な費用がかかるので、20年という期間が長いか短いかについては議論があると思います。どこの会社も新薬を作らなくなると医学の進歩が止まってしまうからです。

とにかく、いまはとりあえず薬価が安いジェネリックを使用して、総医療費を抑制しようという方向ですから、みなさんも食わず嫌いにならず、ボルタレンになじんでいる方もジェネリックの「ブレシン」というのを飲んでみていただきたいと思うのです。

ただし、薬効成分は同じでも微妙に添加物が違う場合が多いので、大きさや形、味などが異なったり、医師によっては薬の効き方まですこし違うというような考えの先生もおられるようですので、効き目が弱い、とか、何か違うという感じがしたら遠慮せず言っていただきたいと思います。それらのデータの一つ一つの蓄積がジェネリックのより一層の普及に貢献すると思われますので、宜しくお願いいたします。

とりあえず、ロキソニンはロキソプロフェンナトリウムで、メルビンはメデット、ムコスタはレバミピド、デパスはメディピースなどに、変わります。よろしくご理解のほどお願い申し上げます。

医療経済と医療を取り巻く環境

2010 年 3 月 29 日

医療保険の価格改正が4月1日から行われ、病院が手厚くされ勤務医不足対策のために報酬をアップした、とされています。われわれ開業医には再診料の引き下げとなる改正なのですが、はたして、病院への報酬アップが即勤務医の病院離れをふせぐ対策につながるかというとはなはだ疑問です。

まず、女性医師の働きやすい環境を整えるために、託児施設などを充実させるなどのハード面にお金をかける病院が出てくれば一番いいのでしょうが、そういう面に気を配る施設なら、すでにある程度のことはしていそうな気がします。また、直接的なドクターフィーみたいな手当てや、産科当直で言えば分娩1件いくらといった具合いに歩合給がつくといったことも給料の面では大事ですが、そんなにフィードバックされるとは思えません。また、人はパンのみによって生きるにあらず、という部分もありますので、給料が上がったらみんな残る、という訳でもないと思います。

結局のところ、自分が開業した経緯を考えてみても思うのですが、勤務医をやめて開業したいという人の中には、開業医がラクだという幻想がある、のが一つ大きな原因でしょう。それぞれの立場にならないとわからないのですが、全然楽ではありません。勤務医時代の私の認識は間違っていました。ですので開業医たたき、みたいなのは心外です。

もうひとつは、どんな業種でもあるであろう独立願望、です。起業願望、といってもいいのでしょうか。これは一国一城のあるじになる、というロマンみたいなもので、人それぞれの性格ですから、みんながみんなずっと勤務医でやっていく、ということにならないのは当然でしょう。私も、自分でいろんなことを決めて採り入れて、いろいろやってみる、という、この起業的な部分に関しては大変やりがいを感じております。ですから、少しでもそういう願望が芽生えた人はいくら給料が上がってもだめでしょうし、最終的なところは人それぞれの価値観ということに帰着しそうです。

先日も私の同級生が医学部教授に選出されたというニュースが舞い込んできました。医師100人の村があれば、10人から20人くらいが大学勤務医で最終的に教授までなるのは一人か二人。残りの40人は開業医、あと半分の40人は勤務医、まれに一人くらいが医師以外の仕事をしている、というふうに、人の生き方的に考えてもそうなるのではないかと思います。でも、そうした個人個人の生き方を肯定できないほど勤務医不足が深刻なら、やはり計画配置しかないのでしょうか?

アメリカでは、最近まで医療を受けられない人もいたのに、一律に高度医療が受けられる幸せな日本では医療費がかかって当然、働く人たちが燃え尽きずに長く働ける環境を整備するのにもお金がかかる、しかし、財政難の時代で財源も限られるとなると、本当に賢明な選択は何なのでしょう?優秀な政治家の出現が待たれますね。

しかし、国民皆保険制度や子供手当など医療や福祉に関することは、発想的には社会主義的共産主義的な部分もあるのですから、医師の計画配置という個人の自由を規制する動きも、医師が社会資源であるという見地からは正しいかも知れないのです。むずかしい問題ですが、とりあえず改正保険の船出を見守りましょう。

それにしても、子供手当はやめて、12歳女児へのHPVワクチン無償全員接種にしてくれないでしょうか?先日来院された、当院でのサーバリックス接種1号2号になってくださったお嬢様のお母様に敬意を表しつつ、そう思います。選挙目当てのばらまき反対。子供手当反対。もっと本当に必要なことにお金を!(全然、医療経済の話ではなくなってすみません)

子宮頸がん予防ワクチン「サーバリックス」

2010 年 2 月 1 日

1月から子宮頸がんの予防ワクチン「サーバリックス」の接種が可能となり、質問を受ける機会が増えてきました。がんのワクチン、みたいに思っている方が多いので説明をしてみたいと思います。

実際のところは癌のワクチン(細胞ががんになるのを防ぐ?)ではありません。そんなものが実際に出来たらノーベル賞ものです(ちなみにヒトパピローマウイルスを発見した方もノーベル賞をもらっていましたが)。ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに対するワクチンなのです。

HPVは性行為で感染しますが、90%の人は自分の持つ免疫力で治ってしまいます。残りの10%の人が持続感染という状態になり、持続的にウイルスの影響を受けた細胞が数年以上かかって徐々に癌化する、という子宮頸がんの発生のしくみがわかってきたのです(ウイルスの関係ない腺癌という特殊な子宮頸がんもありますが、ごくわずかです)。

そこでHPVワクチンの役割ですが、免疫力をつけることでウイルスそのものに感染しないようにしようと言うもので、3回接種後、理論上は抵抗力は20年は持続すると言われています。HPVにはいろんなタイプのものがあり100種類くらいに細かく分類されているのですが、癌をおこしやすいタイプのウイルスは16型・18型・31型・45型・52型・58型などと言われており、尖圭(せんけい)コンジローマというイボをつくりやすい6型・11型などとは区別され、ハイリスクタイプのHPVと言われています。

今回のサーバリックスというワクチンは16型・18型だけを予防するものなので、その他の型のウイルスの予防はできませんが、それでも子宮頸がんのうちの60%~70%くらいが予防可能とされています。

感染はセックスでおこりますので、小学生や中学生などのセックス経験がまだない時代にうつ方が妥当という考え方もあり、自治体によっては導入というところもあるようです。外国ではオーストラリアなどの先進国では、国の予算で12歳時に全員接種となっているところもあります。日本でも本当に普及させてワクチンの恩恵を受けるためには、国の政策として導入してもらった方がいいような気がします。

というのも、価格のこともありますが、ワクチンについて質問して来られる方の大多数が主婦層の方で、すでに性的にアクティブな時代を過ぎている(こういう言い方は失礼かもしれませんが、新しいパートナーとの交渉がありうる、という意味です)方が多いので、「ご主人が外で新しくもらって来ない限り新たな感染はおこりません」と説明すると、大概の方はうたずに帰って行かれるのです。

いくら日本が進んだ、離婚も増えている、と言ってもやはり外国とは違いますし、やはり未婚の方でこれからいろんな相手と性交渉の可能性がある、という世代が一番恩恵にあずかりやすいので、最近ではピルの方や、癌検診に来られた20代の方におもに説明するようにして知識の普及に努めています。

個人の性的なことをあけすけに話す習慣のない日本では、今質問して来られる30代の方のお子さんたちが10代後半になる、あと10年くらいは、このワクチンの普及にはかかりそうですが、気長に、説明を続けていきたいと思っています。ちなみに、他人様にうつものは何でも自分で試してみたい私も、サーバリックスではありませんが、輸入のガーダシルというHPVワクチン(こちらも来年か今年の末に日本で発売されそうですが)を自分にうってみました。筋肉注射なので痛いのは当然ですが、特に副作用などもありませんでした。

もちろん、これから夫を見限って熟年離婚をして、第2の人生の花を咲かすのよ、という方には接種をおすすめいたしますので、遠慮なくご相談ください(しかし、本当はこういうふうに茶化すのが一番いけないのです)。

HPVもHIVと同じで、ただ一人の人との性交でも、たまたま相手がもっていたら感染はしうるものですので、偏見との戦いも必要ですね(まあ、ワクチンうつなんてあそこのお嬢さんお盛んね・・・、みたいなスタンスが一番いけません)。もちろんコンドームにもある程度の予防効果はありますので、あわせて付け加えておきます。

とにかく、いろんなことをオープンに語れる産婦人科医でありたいと思っております(こういう話は女医さんがいいのよ、という声も聞こえてきそうですが・・・)ので、とりあえずご質問はお気軽にどうぞ。

不妊原因重要度番付(ランキング)

2009 年 12 月 16 日
以前、ブログなどでお話していた、複数の不妊原因が見つかった時にどちらが原因として重大か、のランキングをずっと考えていたのですが、最近少しずつ頭の中が整理されてきて、まとまりましたので、発表してみます。

もちろん、これを裏付ける科学的データというのはなく、これはあくまで私の個人的治療経験から来るもの(この前のエビデンスの話でいうところのNBMに基づく私的見解ですので、御了解ください)で、当院では、こういう順で治療をおすすめしますよ、という目安のひとつです。他院の先生に言っても「そんなの知らない」と言われるだけです(笑)ので、十分御理解のうえ治療方針を考えるお役に立ててください。

西  
両側卵管閉塞 【横綱】 高度精子異常(乏精子症、精子無力症など)
子宮内膜症(腺筋症) 【大関】 高齢(40歳以上)
(粘膜下)子宮筋腫 【関脇】 長い不妊期間(原因不明も)
子宮内膜ポリープ、喫煙、その他 【小結】 卵巣機能不全(PCO、他のホルモン異常)など
以上、おおまかにこういったランキングです。位が上の異常があればあるほど絶対的不妊原因になりやすい、ということです。それ以外だと、たまたま調子がいい時には妊娠することもあるかもしれません。横綱を倒さないと(検査で異常がないことを確認するか体外受精ふくめ治療しないと)優勝(妊娠)できない、ということです。

子宮内膜症があっても妊娠される方も、まれにはありますが、それほど重くないと思っていても腹腔鏡でみてみたら案外重症で、治療したらすぐできた、という方も多いのです。

また、不妊期間が5年くらいなどの長期の方で、検査したら異常がないからと言って放置される方がいらっしゃいますが、今までできなかったという事実の方が重大です。一般検査でわからない異常が隠れているだけのことがほとんどです。そうでなければとっくに出来ているはずなのです。

また、漢方などの自然な治療を希望される方も多いですが、普通に考えれば上位の原因が隠れていたら漢方や自然療法単独ではできないですから、検査だけはひととおり済ませてから、そうした治療をされることをおすすめします。

そして、2年くらいそういう方法でだめなら西洋医学に戻ってほしいと思いますし、40歳過ぎた方ではそれだけで大関が立ちはだかっているわけですから(それも千代大海のようなカド番大関ではなく日馬富士のような横綱をうかがおうかという強い大関です)、できるだけのことはどんどん何でもやった方がいいと思います。

相撲がわかりにくい方には、今度別のたとえを考えておきます。